商店街が好きだ。
特にアーケードのある商店街に心が惹かれる。
なぜ好きなのか考えてみたところ、理由は幼少期に起因する。
そもそも私が育った町には商店街というものはなく、駅前やバス停周辺に構えられたスーパーと小さな個人店が入ったショッピングセンターと町内のあちらこちらに商店がある程度で、駅前にわずかにお店が軒を連ねているものの商店街とはちょっと違う。なので、日常では商店街というものに馴染みが無かった。
しかし、祖父母が遊びに来てくれた際には電車やバスで神戸の兵庫区にある東山商店街によく連れていってもらった。
小さい頃、それも乳飲み子から人間に進化したての私は文字通り「玉のように」可愛らしかった。
なので商店街に向かう道中、それはもう頻繁に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、何歳?」と聞かれると必ずムチムチの指を三本立てて自分の年齢を誇示する。するとみんな「可愛い」「賢い」と私を褒めそやしてくれた。自己肯定感がメキメキ上がる。この世の春です。気持ちがいい。私の天下であり、私が正義だ。みんな私のもとにひれ伏しなさい。
知らない人に褒められるのもそうですが、一緒に買物に行くとあれこれ買ってもらえる。
お菓子やおもちゃ、アンパンマンのポシェット。
行くと楽しいことが起こる場所=商店街という刷り込みがあったせいなのか、今でも商店街に行くのはワクワクして好きなのだ。
あとは当時大好きだったアニメ、「3丁目のタマ」の町並みが、東山商店街のある湊川に似ていた。
タマの町には商店街はないのだけれど、アニメ登場するお店と東山商店街にあるお店屋さんが同じだった。
豆腐屋さん、大きな煙突のある銭湯、遊具のある公園に川にかかる橋…これらすべてが揃っていたから、私はこの街がタマちゃんたちの街だと認識して、行くたびに彼らに会えないかワクワクしていた。かわいいね、小さい頃の私。
さて、現在住んでいる場所は徒歩圏内に商店街があるし、すこし足を伸ばせば八百屋さん、魚屋さん、お肉屋さんはもちろん、街のマダムの流行を発信するブティックなど昔ながらの商店街がいくつもある。
先述の東山商店街も歩いていける距離にあって、週に一度の頻度で足を運んでいる。
そして、自分の台所を持つようになって、兼ね兼ね憧れていたことを実行した。
「〇〇屋さんで買い物をする」だ。
先述の通り、私が住んでいた街には商店街がなかった。
お肉や魚はスーパーでパック詰めされたものを買っていたし、豆腐屋さんなんてもちろんなかった。だから、3丁目のタマのタケシくんのようにボウルを持って豆腐を買いに行ったことなんてない。
八百屋さんがあったこともあるのだが、お店がとても広くて、どちらかというとスーパーのようだった。
祖父母と東山商店街に行った際に、祖母や周りのお客さんがお店の人達と雑談しながら買い物をする姿にとても憧れた。なんだかとてもかっこよく見えたし、祖母が「今夜はすき焼きやから」と冷蔵庫から取り出した白い紙に包まれたお肉は、パックで売られているお肉よりも美味しそうにみえた。
だから、一人暮らしをしてしばらくはお肉屋さんや豆腐屋さんで定期的に買い物をしていたのだが、どうしても行けないお店があった。
卵屋さんだ。
実のところ、当初はそのお店を卵屋さんと認識していなかった。
いつもお店が閉まっているからだ。
私は大抵午前中に商店街で買い物をして、午後の早い時間には帰宅と散歩を兼ねて家に向かい始める。
ある時、掃除が長引いてしまって、おやつ時に商店街に立ち寄った際に木枠の中にコロコロと並べられた卵を見て、その謎のお店が卵屋さんであることを知った。
このとき、我が家の冷蔵庫にはドラッグストアで10個で201円で買った卵が鎮座していたため購入に至らなかった。
値札には1個31円と書かれており、10個買うと310円となるため、当時の私には割高に感じた。なので、しばらくの間、卵はスーパーやドラッグストアで購入していた。
そうこうしているうちに新型コロナの影響で鶏卵の値段が上がり、10個で300円近い値段になってくると、これはあの卵屋さんで買うのと変わらないのではないか?という考えに至る。
しかし、今日こそは買うぞ!と意気込んで行ったものの、何度かお店が開いていない空振りを経験し、やっと卵屋さんで念願の買い物をすることができた。
店主のおっちゃんは、一見無愛想なのだが、話し掛けてみると気さくで、お店の営業時間やおっちゃんのナイトルーティン、おすすめのテレビ番組など色々情報を引き出せた。
おっちゃんのところで買った玉子は黄身が大きく、プリプリしている。
おっちゃん曰く、餌とお水をたっぷり与えて育っているので鶏に必要な栄養がしっかり与えられているからお安い玉子と比べて水っぽくない。
堺雅人のドラマ、VIVANで目玉焼きを焼く際に、ザルに卵を割ってから、余分な水分を落として割るとホテルの目玉焼きのようになる、というシーンがあったが、おっちゃんの卵で作った目玉焼きはそんなことをしなくてもプリプリの目玉焼きになる。
料理のポテンシャルをいくつも上げてくれる魔法のおっちゃんの卵。
そんなおっちゃんの卵を使ってだし巻きやオムライス…と玉子が主役の料理を作ってきたが、最近はあえて脇役で使うレシピがお気に入りだ。
たとえ脇役であってもその存在感は消えない。ちょうどVIVANで堺雅人の脇を固める阿部寛のように。
おすすめはオテル・ドゥ・ミクニの三國シェフのキャベツのスープと賛否両論の笠原シェフのブロッコリーとエビのふわふわ揚げ。
三國シェフのキャベツのスープは本当に簡単。
キャベツを千切りにしたものを、和風出汁と鳥ミンチ、味付けに塩麹をいれて煮込むとできる。
15分程度でできるし、体もあったまってお腹も膨らむので、すぐに私の定番レシピになった。それどころか、最早殿堂入りすらしている。
肝心の卵はというと、白身は溶いてスープにいれ、卵黄はトッピングのようにスープのトップオブ真ん中に乗せる。
食べる際に卵黄はすぐに崩しても良いのだが、私は崩さずに少し置いて熱の伝わった、ほんの少しトロトロになった黄身を食べるのが好きだ。
キャベツは自分でカットをしてもいいし、スーパーに売っている千切りが余っていたりするとそれを使ったりもする。
キャベツを自分で千切りしたキャベツを使うほうが甘みを感じるのだけれど、美味しさよりも手軽さを取りたい時ってあるやん。
出汁もきっと三國シェフが紹介しているレシピで作ったらもっと美味しいと思うのだけれど、我が家は水に昆布と鰹節を一晩浸した出汁を作り置きしているのでそれで作っている。
三國シェフはフランス料理のシェフなので、レシピを紹介する際は必ず、フランス語で料理名を教えてくれる。「ポテ・ジャポネーズ」と言うらしく、「ポテ」は煮込んだもの、という意味で、コロコロした見た目のシェフが「ポテ」と何度も言う姿はとても可愛らしい。
ジャポネーズとついている通り和風のスープ。
三國シェフはダイエットや飲みすぎた日に良いと言っていたけれど、私は食べすぎた翌日の朝に食べる事が多い。
朝起きて、胃が重たい時に無性に食べたくなる。
先日父親のおごりで焼き肉に行った翌日ももちろん食べた。
酷使した胃を優しく労ってくれるのだ。
ブロッコリーとエビのふわふわ揚げは、平たく言えばブロッコリーとエビのかき揚げだが、衣に角が立った卵白を使う。これで揚げるとふわふわになって美味しいのだ。
では、卵黄はどう使うのかというと大根おろしとみりん、醤油と合わせてソースにして食べる。
これが訳がわからなくなるほど美味しい。
醤油の塩味とみりんの甘さ、それをさらにまろやかにする卵黄。
これをブロッコリーとエビのかき揚げにかけるとあっという間に食べられてしまう。
それぞれの元動画は下に貼っておくので、是非良い卵が手に入ったなら試してみてほしい。
さて、おっちゃんに買いたい卵の個数を告げると、ぶら下がった電球に卵を翳して何やらチェックをしてくれる。
何をしているのか聞いてみると、ひび割れが無いかチェックしているのだそうだ。
おっちゃんのお墨付きが出たものを新聞紙に包んでくれて、お家に持って帰ることができる。
そんなこだわり卵を今日はどうやって食べよう、と家までの道のりで考えるのが楽しい。
【参照レシピ】