ラーメンショップ
全国に300店以上展開されているラーメンチェーンだが、生まれも育ちも兵庫県の私には馴染みがない。
それもそのはずで、関西には殆ど店舗がないのだ。
ではなぜ知っているのかというと、飲食店を紹介するYouTubeのチャンネルで度々見かけるからで、藤子・F・不二雄作品のタイトルロゴのような看板、背脂たっぷりのこってり系スープに、謎の調味料"クマノテ"を絡ませたたっぷりのネギとそれらに絡まる太麺。
学生時代、こってり系ラーメンこそ至高と旗を立て、家族、友人知人に力説していた私にはスープの上でキラキラ光る油が宝石に見えた。
かつてマリリン・モンローはダイヤモンドは女の子の親友と歌ったが、私、泥沼ブブ美は背脂はブブ美の親友と歌いたい。
しかし、どんなに焦がれて、意識をしていても私の生活圏内でその名前を見かけることは無かったし、取り上げられる店舗は関東圏ばかりなので、関西にはないものだと思い込んでいた。
関東さんの食べ物だから向こうに行くタイミングがあったら食べたい、と思っていたらあったのだ、関西に。それも自宅から自転車で30分以内の距離だ。
大晦日、実家で例年通り怠惰かつ実に有意義な時間を炬燵の中送りながら、YouTubeの動画を少しかけては、ああでもないこうでもないと、ザッピングのように興味をあちこちに浮気させていたところ、件の店舗を紹介する動画は私の前に現れた。
もうね、齧り付きで動画をみましたよ、クリスマス前にトイザらスのチラシを見る子どものように。
そしてしばらくはそのお店「ニューラーメンショップ オリジン」のことが頭から離れなくなっていた。
でも、年始から予定が詰まっているし(リア充マウント)、定休日は日曜日のようだけど、年明け最初の土曜日は会社があるし(社畜)でしばらく行けそうになかった。
ニューラーメンショップの事を心に留めながら年始を過ごし、明日からいよいよ仕事始めのタイミングでもう一度お店について調べてみた。
そうするとお店のインスタグラムに年明け初めの日曜日はオープンしていると記載があった。
これは今週中に行ける!!
そこから私の脳内はニューラーメンショップに支配され、生活のすべてを日曜日のお昼に食べるラーメンに標準を合わせた。
まず、なるべく運動を行うようにし、通勤時は一駅歩くように心掛けた。
食事も肉類は控え、魚メインの食事にし、当日までなるべくあっさりしたものを食べるように努めた。
実にストイック。脳内ではボン・ジョヴィの『It's My Life』をが常に流れていた。
・・・努めるようにしたのだが、前日の夜に無性にソースとマヨネーズが食べたくなった。
野菜や果物の甘みがぎゅっと濃縮された茶色天使のソース、まろやかさの中にほんの少しの塩味がある白い悪魔のマヨネーズ。
混ざり合う天使と悪魔に鰹節と青のりをかけて口に頬張ると途端に広がり、鼻に抜ける潮の香りと香ばしさ。
紅一点の紅生姜も良い。白と緑、濃さの異なる茶色と一見地味な色の中に突然現れる赤色。
色合いも華やかになるのだが、ソースとマヨネーズでこってりとした口の中を酸味がスッキリさせてくれる。
「お好み焼き」
悪魔が私に囁いた。
そう、この欲求を満たせるのはお好み焼きしかない。
いや、たこ焼きという選択肢もあるのだが、たこ焼きは家で作るのは些か面倒だし、贔屓のたこ焼き屋は通勤経路から外れており、片道20分はかかる。
そうなるとやはりお好み焼きしかない。分かっていたんだ、とうの昔に。
そうなるとお好み焼きにはカリカリに焼いた豚バラだ。
牡蠣や海老などの海鮮も美味しいが、やっぱり1枚目は自身の油で揚げ焼きのようになった豚バラの食感と噛めば広がる脂の甘味を味わいたい。
豚バラ…紛うことなき肉だ。
それも豚の中でもいっとう油の多い部分。
しかし、明日の為に肉類を抜いてきた。ここで食べてしまったら明日の楽しみは半減するのではないか?
でも、お好み焼きは食べたい。それに数日とはいえ、久しぶりに飛び級の動物性油脂を胃に流し込んで、私の体は受け入れることができるのだろうか。
脳内でメルキオール、バルタザール、カスパールの3人に相談し、三者一致で欲望に従うべきという回答が出たので、豚バラのお好み焼きを作りました。
流石に今までの努力が無駄になるような気もするがので、半分豆腐のヘルシーなお好み焼きして。
【材料】
豆腐150g
お好み焼きの粉(袋の裏に書いている規定量の半分)
・片栗粉大さじ2
・キャベツ、豚肉などの好みの具材
・卵1個
・あれば魚粉
①豆腐をボールにあけて、泡だて器で原型がないくらいまで混ぜる。豆腐に「お前は豆腐だった」という記憶を無くさせるぐらいに。
生クリームを混ぜるように縦に円を描くのではなく、底にぐるぐると円を描くような感じ、ジャムおじさんがカレーパンマンのカレーを仕込んでいるような感じで混ぜると早く形がなくなります。
②お好み焼きの粉、キャベツ、卵、あれば魚粉を入れて混ぜる。混ざったら片栗粉をいれてまた混ぜる。
全体の粉っぽさが無くなったらOK。
③フライパンに油を敷いて中火で温める。
温まったら、生地を流して具材を並べる。
④暫く放置。焦げているのか心配になるくらいがベスト。持ち上げてみて、裏がカリカリになっていたらひっくり返してOK。
中火で4〜5分くらいな気がする。
豆腐に水分が多いので、我慢できずにびっくり返しちゃうと崩れる。崩れちゃうと萎えるよね。
⑤裏面も焼いたら完成。
あとはお好みでソース、マヨネーズ、青のり、鰹節、紅生姜をかける。
豆腐を使っているので、カロリーは抑えられるというのも大きいですが、外はカリカリ、中はふわふわなお好み焼きを簡単に作ることができる。
ガッツリ食べたように見えて実はヘルシーです。マヨネーズがかかっていたとしてもね。きっと。
さて、日曜日。
私は近くのレンタルサイクルで自転車を借りて憧れの地へと向かった。
脳内でポケモンのサイクリングロードを流しながらごきげんに自転車を漕いで、20分程度で到着。
真っ赤な看板!!!
積まれたラーメンショップの要とも言える大量のネギ!!!
スキップからトリプルアクセルをキメて店内に入りたいという気持ちを抑えながら、「散歩していたらお腹が空いて、たまたま入りましたのよ」と冷静を装いながら入店。ここに来るためにわざわざチャリンコを借りているのにね。
脳内で散々シュミレーションした「ネギチャーシューメン」と「半ライス」の食券を購入してカウンターに着席。ラーメンの到着を今か今かと待ちわびた。
鼻腔にひっつくような豚骨スープの香りで私の胃はTWICEのThe feelsを踊りだした。
麺を覆い尽くす白ネギと添えられた白ゴマ。白ネギにはクマノテという調味料に絡められていると聞いたが、どんな味なのだろう。
チャーシューは箸で持ち上げたら崩れてしまいそうなくらいトロトロだし、添えられたワカメは小休止のためのものなのか。
チャーシューを巻きたいが為にご飯を注文したが、ワカメと一緒に掻き込んでも美味しそう。
そして何より大きい。写真から伝わりづらいですが、想像の1.5倍大きく、しこたまお腹を減らしていったものの、半ライスを注文したことを少し後悔した。
しかし、物価高の昨今。
小さくてしょんぼりすることはあれど、大きくて驚くことはそうそうないよね。
早速食べてみると、見た目より脂っこくない。
背脂の量を「普通」にしたとはいえ、浮かぶ背脂とラーメンの大きさに少々たじろいでしまったが、口に含むとスルスルと飲めてしまう。
中太麺を持ち上げると、ラーメンショップの一丁目一番地であるネギを巻き込きこまれる。そのまま口に頬張ると、モチモチした食感とネギのシャキシャキした食感が楽しい。
麺にもスープがよく絡むので麺の甘みとスープのこってり感を同時に味わえ、箸がどんどん進んだ。
トロトロのチャーシューが崩れないように、そっと箸で持ち上げてご飯の上に乗せる。
分厚いチャーシューでなんとかご飯で巻いて口に運ぶと、肉の旨味とご飯の甘み広がって、チャーシューの食べ方を悩ませた。
チャーシュー単体で食べてもいいし、スタンダードに麺やスープと一緒に、いやもう一度ご飯と…。様々な食べ方を選り好みしては試して、と繰り返しているといつの間にか器とご飯は空になっていた。
満腹から来る眠気と、ネギとにんにく由来の多幸感に包まれながら自転車をえっちらおっちら漕ぎながら帰途へとついた。
結局、件の"クマノテ"にはごま油が使われていることしかわからなかったけれど、これを書いている今も、その味を思い出して自転車に飛び乗ろうとしてしまっている。
【行ったお店】